クラウス・ハンザと未知との遭遇 2





「クラウス・ハンザ君。我々のチームは君を歓迎するよ」
「ありがとうございます、マクダウェルさん」

 恥ずかしさで顔面から火が出そうだ。握手をしながらも非常に恐縮していると、大男ことモーリス・マクダウェル博士は例の豪快な大笑いをしながら彼の背を遠慮なく叩く。
 チーム・サジタリウスの面々と思い思いに挨拶周りをしながら、クラウスは自身の専門分野の第一線を行く博士に、先ほどどんな態度をとったかを考えて死にたくなっていた。星間ニュースで見る姿と違う、という言い訳は、このところ所内に詰めっぱなしだからなあと一笑された。そういう問題だろうか。
 あらかたチーム全員と挨拶し終えたところで、モーリスがクラウスに耳打ちした。

「君にはロックを助手につけることにしたよ」
「えっ」
「そういやそうな顔をするな」

 ロックは当たり前だが、チームの中でひときわ小さい。大人用のチェアに座り地に届かない足を抱えて、さきほどの顛末をからかわれて困ったように笑っていた。そこへモーリスが彼を呼ぶと、首をすこし傾けてすくと立ち上がった。

「彼はああ見えてうちのチームで一番の年長の、エスパーだ」

 不安になりながらもどうにか愛想笑いを浮かべていたクラウスの肩を叩きながら、モーリスが囁く。

「へ?」
「ちょっとしたハプニングで今はあんなだがね。まあ、明日になったらわかる。……ああ、ロック、クラウスくんを頼むぞ」

 近づいてきた少年はにこ、と愛想のいい微笑みを浮かべて、右手を差し出す。ぽこりと浮いたえくぼがいかにも愛らしい。あわてて握った手は、高い体温と湿度をはらんだ子どもの手だった。

「え、えっと、ロック、さん」
「さん、はいらんよ、さん、は。なんてったって実験体だし」
「も、モーリスさん、その話はもう……」
「はっはっは。しかしまあ実際、そいつはただのアルバイトだ。年長だろうがなんだろうがハンザ君の助手だよ。それ相応の扱いをしてやりたまえ」

 くすくすと笑うロックも同意するように首をふったため、クラウスも承知せざるを得ない。
 しかし、クラウスは今に至るまでエスパーの友人がほとんどいなかった。親類にもいない。敬遠してきたわけではなく、単純に縁がなかったのだ。
 でもさすがにここまで実年齢と外見にひらきがあるのは、エスパーだとてたぶん珍しいんじゃないだろうか。大きな目でこちらを見上げる少年が自分より年上だなんて。

「これからお手伝いさせていただきますね」

 言動は確かに大人のそれなのだ。クラウスは不思議な気持を抱えたまま、どうにか状況に適応しようと心を決めた。
 いくつかの事務的なやりとりのあと、少年が質問はありますか、と緑の髪をふわりと揺らしながら言った。クラウスはちょっと考えて、そういえば、と口を開く。

「ロックはどうしてそんな姿なんです?」
「は?」
「いや、エスパー……なんですよね? だったら治癒くらいは……」
「ああ! その節は驚かせてすみません。マディ・サーペントってご存じですか?」
「……何です?」
「泥竜。沼地を好む大きな“トカゲ”です。重さは成体で2トンになる。彼らは非常に希少な種ですが一部の星系や保護区には残っていて、その研究をしているチームのお手伝いをすこしだけさせてもらっていたんです」
「は、はあ……それで」
「そいつら図体のわりに臆病な性格でなあ。見慣れないやつが来てびびったんだろう」
「繁殖期も近いしね。具合が悪いようだったから様子見に檻をのぞいたら、ついうっかり出会い頭に左肩を丸ごと噛みちぎられて、あと脇腹も。臓器と骨の損傷が激しくて、出血もちょっとしたもので……そこでモーリスが慌てて呼びにくるものだから、治癒が間に合わなかったんです」
「ぞ、ぞうき……」
「すごかったぞお。ロックも痙攣するばっかりで、あたり血まみれだし阿鼻叫喚だし、さすがにもう死んだかと思ったが、いやーやっぱり年の功だな! そうそう、まだその研究室には血のあとが残っているらしい。肉片回収も大変だったんだ。あとでソテーにして食うか?」
「すまないって言ってるじゃないか」
「冗談だよ、もう“トカゲ”の腹ン中さ」
「ヘタな冗談はよしてくれ。そういうわけで、再生が不十分のままお迎えに……ハンザさん? 大丈夫ですか?」

 顔色を真っ青にして、クラウスは首を振る。そのままふらふらと不自然な体勢で部屋を後にした彼を、ロックとモーリスは無言で見送った。

「……彼はエスパー慣れしてないんだなあ」
「そのようだね」

  少々先行きは不安だが――クラウス・ハンザはこうして、未知との遭遇を果たしたのであった。










 TOP

------

 THE妄想