YOUR GRANDPA IS THE MOST OLDEST...

<オリジナルキャラクターとか捏造設定とかもりもりです。お気をつけ下さい>






 銀河連邦情報局所属巡洋艦「バルゴ」には大規模な訓練施設がある。
 基本的に艦内の人間は自由に利用でき、待機中のものの姿でごった返していることもすくなくない。小隊単位から使用登録できる模擬戦用フロアや、リラックスルームやシャワーブースも併設され、どうしてここまで豪華なのか不思議なほど充実した設備群に首を傾げつつも、多くの隊員たちはその恩恵を享受していた。
 この日模擬専用フロアをひとつ借りていたのはアレン・オルウェイン大尉率いる分隊員たちだった。

「なーんか、やりにくいよなあ」

 短い金髪を掻きながらボヤいたのは、イワン・フョードロヴィチ・スペランスキーである。隊ではもっとも古株で、キャリアはたったいままで手合わせしていたハリス・キンボールと並ぶ。そのハリスは苦笑しながら新型パワードスーツの調整を始めた。
 いつもはアレンと副官のギルバート・ファーマーが上方から訓練模様を監督しているだけなのだが、今日はそれに「お客さん」がひとりついていた。
 白い練習場はざっとサッカー場程度の広さがあり、天井も高い。長方形の床は衝撃吸収素材でできていて、滅多なことでは傷つかないようにできていた。壁も同じ素材だがところどころにマーカーがついており、動作記録とESP制御にも一役買っている。6人の隊員はそれぞれ好き勝手に準備をはじめ、ガラス張りの通称「観覧席」(スタジアムのそれに似ているため、その名で通っている)では、アレンとギルバート、それに「客人」ことロック少年が優雅にティータイムにいそしんでいるわけである。

「なークーガー、あの坊主と知り合いなんだろ」

 イワンはそばで準備運動をしていた赤毛の青年に話しかける。が、返答はない。

「何だよ、クーガーまだ不機嫌なのか?」
「そうなんですよ……ずっとこの調子で」

 アダム・ウィラーは肩をすくめる。クーガーは昨晩ゲストを迎えてからこっち、必要最低限しか口を開かない。いい加減気も詰まる。
 イワンはガシガシと頭を掻くと、訓練相手だったハリスに片手をあげてことわってから、クーガーのもとに駆け寄った。




 ――「観覧席」にて。

「おいしいお茶ですね」

 噂の「お客さん」であるロックは、のんきな声でのんきな感想をこぼした。
 パイプ椅子に腰かけて、連邦軍のマーク入りのマグカップで紅茶をすする少年の正面には隊長のアレンが座っている。

「それはなによりです。地元から持ってきたものでして」
「へえ。コルタですか?」
「ご存じでしたか。茶くらいしか目立ったもののない田舎です」
「そんなことはないですよ。いつだったか一度足を運びましたが、市内にすばらしい博物館があったと思います。芸術面において独特な文化を持っていたと」
「……さすがですね」

 アレンは本心から感嘆していた。コルタはほんとうに田舎の星で、宙港も星に3ヶ所しかなく一日の便数もすくない。
 ひとくちカップに口をつけ、ロックはふふ、と笑う。

「まあ、時間だけはあるもので……ああまたひと組、始まりましたね」
「そうですね」
「……あそこの、ブロンドの彼は?」
「ああ、スペランスキー軍曹です。ベテランですね」
「先読みが上手ですね。そのぶんガードが甘いけれど」
「……一瞬でよくおわかりですね」
「ふふ。癖が強いから」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……あの、ロックさんも参加されますか」
「え」
「このところ待機が続いてなまりがちな彼らのいい薬になりますし、あなたの暇つぶしにもなるかと。ただ、任務に即時復帰できる程度で加減していただければ、何卒それだけはよしなに」
「……そんなに物騒に見えますか、ぼくって……」
「ええ、まあ、それなりに」





 客人を伴って階下に降りてきたアレンは、敬礼をする部下たちに返礼をしたのち、大きな声で叫んだ。

「これから模擬戦闘を行う! 今回は特別にこちらのロックさんがお相手してくださる。皆常よりいっそう励むように」

 アレンの隣のロックは腕を後ろに組んだまま、よろしく、と笑った。
 一瞬の間のあとざわつきはじめた兵士を後目に、ギルバートがパワードスーツを担いでくる。動作記録チップが随所に組み込まれたそれは船外作業用とはまた違ったもので、急所に分厚いプロテクトが入っていた。

「こちらがプロテクターです、お手伝いしますか」
「あ、大丈夫です。たぶんサイズがないし、重くなるから」
「……はあ?」

 ふわりと笑いながらの返答に、兵士たちが一斉に気色ばむ。
 最初に声を上げたのはイワンだった。

「上等ですよ、こんなヒョロガキになめくさられちゃあ」
「イワン! 申し訳ありません、主に頭と口の悪い部下で」
「かまいませんよ。イワン・スペランスキー軍曹、だったかな。よろしく」
「へーへー、いいでちゅよ〜」
「ふふふ。現役と相手をするのは久しぶりだなあ」

 片やパワードスーツ、片やパーカーにジーンズという、どう見てもおかしい光景に、ぽかんと口を開けたままだった聴衆がにわかに騒ぎだした。

「ちょっと隊長、あれはさすがにまずいでしょう! 大怪我ですって!」
「そうだな、まずいな」
「わかってるんなら、」
「イワンはメットを装備するべきだよ」
「へ?」

 ぼそりと言ったのはクーガーだ。暗い表情とともに地を這うような声音だったが、聞き逃したものはいなかった。

「ワーニャがあんなガキに負けるっていうのか?」

 イワンの実力をよく知るハリスは声をあらげた。迷わず頷いたクーガーに、彼はほとんど掴みかかるように詰め寄る。

「おい、よせって」
「これが黙っていられるかよ!」
「落ち着け阿呆ども。おとなしく見ていればわかる」

 上官の鶴の一声にあわや乱闘騒ぎになりかけた一段が息をひそめた。クーガーだけならまだしも、隊長までもが。
 練習場の中央では既にイワンがファイティングポーズを取っていた。ロックのほうはにこにこと微笑んだままだ。
 機材の準備を終えたギルバートが片手を上げる。アレンは頷き、よく通る低い声で言った。

「1ポイント先取、超能力の使用可。はじめ」

 ひゅっ、と息を吸い上げ、イワンが前に一歩踏み出した。
 訓練上の床を蹴ると大きく体を伸ばす、そのまま遠心力を利用して握りしめた拳を振り切った。
 ロックはわずかに体を傾けてそれを避ける。牽制の一撃だ、もとより決まると思っていない。
 傾いた側に体当たりをするように第二撃に繋ぐ、それも避けられる。風の動きにあわせるように凪いだ姿勢で、のらりくらりとしているのに不思議と隙がない。だが人間の動きには決まりがある。それに限界も。
 着地した瞬間の足首を払おうと蹴りの姿勢に移ったそのとき。
 ――子どもの姿が、消えた。

「!?」

 反射的に体を丸め視線を泳がせる、背後からトッ、と軽い音。イワンが目の前から消えた少年を目で追おうと首を動かした瞬間に。

「う、ぉっ!?」

 視界がぐりんと廻る。首の後ろをとられたと気づいたのは痛みが届いてから、状況は読み切れないが反射的に防御姿勢を取ろうとしたイワンだったが、予想以上の力で投げ飛ばされて背中から訓練場の床にたたきつけられる。

「はい、おしまい」

 上から降ってきた声は鈴を転がすように軽い。イワンはぱちぱちと瞬きをしたが、視界に入るのは天井の照明のまぶしさだけだった。

「マジかよ……」

 あっという間もなく、決着がついてしまった。

「さあ、次。威勢のいいことを言っていたのは、キンボールだったかな? かかっておいで」

 にこやかに言う少年に、にわかに鼻白む兵士たち。

「もう逃げたい……」

 そんななか、クーガーだけは離れたところでひとりごちた。今度は誰にも聞こえなかったし、もし聞こえていたとしても、何も変わらなかっただろう。彼だけはよく知っていたのだ、ロックというこの少年がここにいる誰よりも強くタフだということを。
 明日、みんな起き上がれたらいいんだけど。たぶん全身筋肉痛だ。“あのとき”みたいに、最低でもいまいる兵士たちすべてをボコボコに打ちのめすまでは、たぶんロックは容赦しない。
 はあっ、とクーガーが本日何度目かのため息を吐くのと同じタイミングで、ずどおん、と大きな音。

「はい、キンボールもおしまい。次、来なさい。それともこのまま黙って立っているつもりかい?」

 ――ああ、ほんと、もう、最悪。










 TOP

------
 ロックさんだって、腐っても軍属。