YOUR GRANDPA IS THE MOST YOUNGEST...

<オリジナルキャラクターとか捏造設定とかもりもりです。お気をつけ下さい>





<オルウェイン隊、緊急召集。1100までに作戦本部まで。オーバー>

「……って、あと二十分じゃないか」

 今日は隊全体に待機命令が出ていた。これほど突然の召集令は滅多にないことだ。慌てて飲んでいたまずいコーヒーをデスクに置くと、ウィラーは軍帽を手に部屋を出た。
 気のせいか連邦情報局所属の軍艦「バルゴ」全体に漂う普段よりも落ち着きのない空気を感じつつ、駆け足に階段を上る。ちなみに「バルゴ」にいる人間のうち一部を除いてすべてが情報部員である。
 皆思い思いの場所に散っているのだから果たして定刻どおりに集まれるのか、隊長の雷をいまから想像して背筋が冷える。と、後ろから肩を叩かれ、駆け足のまま首をぐるりと巡らせた。

「やあ、マクバードか」
「……おう」
「どうしたんだよ浮かない顔して」

 苦いものを噛みつぶすような表情で挨拶を返すマクバードに、ウィラーは目を見張る。たがいに士官学校の同期で配属も同じ隊という奇妙なつきあいで、ウィラーはマクバードのことをよく知っている。普段ならおとなしく待機なんてしてるより、何かしら任務についていたがるような男だ。待機だって立派な任務だと怒鳴られ続けていたのを思い出す。

「いや……気が進まなくて」
「? 何で呼ばれてるかわかるのか?」
「……まあ、何となく……」

 濁した言い方に眉根を寄せる。足並みを揃えながら彼の目をのぞき込むと、ばつが悪そうに逸らされた。

「何だよ」
「いや、だから……どうせ行ったらわかるだろ。急ぐぞ」

 ぶっきらぼうに返すと、マクバードは足を早めた。あわてて着いていくウィラーに聞こえるか聞こえないかぎりぎりの声で、

「公私混同だよなあ」

 と、呟いた。





「あと数時間後、当艦に視察が入る」
「視察ぅ?」

 作戦本部に響きわたった素っ頓狂な声は副隊長のホーマー、彼らの所属する「バルゴ」は単なる訓練航行中で、なおかつ本日はほとんどの隊員が休暇命令を受けているため、作戦行動は行っていない。さらには彼らの担当宙域が平和そのものすぎて、このところずっと視察が来るほどのことは何もしていなかった。

「質問は後で受ける。続けるぞ、アホ面引っ込めろよ」

 スカーフェイスにたばこをくゆらせ、隊長のオルウェインは並んだパイプ椅子の上の驚いた顔を眺める。ゆっくりと紫煙を吐き出すと、手に持った小型のプロジェクターを操作してスクリーンに任務詳細を表示した。

「ゲストは連邦の超VIPだ。できるだけ内々にと言うことだが、数名のボディーガードを配置するようにと上から通達があった。新入り組、よろしく頼む」
「俺たちですか?」
「ああ。他のチームも周辺警護や見回りという仕事があるぞ、サボるなよ」

 いつものように淡々と言い渡され、チームメンバーは顔を見合わせた。
 「新入り組」というのは、アボット、マクバード、クラインの三名で構成されるスリーマンセルチームのあだ名だ。入隊してから一年が経っても増員計画が立たないためいまだに彼らは「新人」なのである。ウィラーも同期だが、彼は別チームだ。
 肩をすくめるアボット、首を傾げるクライン、そして。

「ボディーガードなんか要らないと思うけど」

 隣のウィラーにぎりぎり聞こえるくらいの音量でひとりごちたマクバード、この三人に読後破棄の必要書類を手渡し、全員に作戦行動の復唱をさせてから、いくつかの質疑応答の後、解散となった。





 作戦本部を出ると、ウィラーはさっきのお返しの意味も込めて、マクバードの肩を叩いた。

「おい、さっきのどういうことだ?」
「どうもこうもないよ」

 マクバードはうんざりした顔でウィラーの手を払う。アボットとクラインも足を止めたのを見て、赤銅色の頭を横に振った。

「マクバード、やっぱりおまえ今回のゲスト知ってるんだろ」
「まあね」
「教えろよ、水くさいなあ。誰なんだ、このVIPって」
「……まあOBみたいなもんだよ、連邦発足当時の」
「まーたまた。そんな大物とおまえが知り合いなわけないだろ〜」
「……」
「にしても、この船内に迎えるだけでボディーガードだもんなあ。おれたちが疑われてるみたいでちょっと気分悪いよ」
「アポなしの分際でえらっそーによ」
「……まあ、有名人だし」
「やっぱ知ってんじゃん」
「名前みて気づかないんじゃ、言っても意味ないよ」

 名前ねえ、とアボットとクラインは手元の書類に目を落とす。ファミリーネームがEmpty表示である以外は、名前欄にこれといっておかしな項目はない。ただ、年齢・出身地・ESP値などの欄まですべてEmptyなのはだいぶおかしいが。階級は准将、予備役だ。

「もういいだろ。行くぞレオ、テディ」
「あ、おい待て待て」

 結局、マクバードをのぞく三人は首を傾げるだけで終わってしまった。





 三時間後。
 定刻どおりに小型の貴族向け個人宇宙船が到着し、搭乗口をドッキングする。「バルゴ」には客用の乗り場などないので、油臭い整備場でできる最大限の準備を終え、彼らは噂のVIPを待ち受けた。
 まずタラップを数名のスタッフが荷を引きながら降りてくる。彼らと書類をいくつかやりとりすると、やがて隊長が大きな声を張り上げた。

「お待ちしておりました、准将!」

 かけ声とともに全員がびしりと敬礼する。その姿は逆光でよく見えない。
 カン、カン、とタラップを踏む音、正面に迎えたオルウェインの前に現れたのは。

「わざわざ、ありがとうございます」

 VIPにふさわしい立派な体躯や年齢のうかがえる禿頭――などではなく。

「……へっ?」
「こんにちは、みなさん」

 どう見ても、子どもだった。
 軍人には不似合いな、色の白い細面、澄み渡った空のような青い瞳、光の加減によって金色からみどり色にグラデーションする髪。笑顔は清冽で穏やか、すずやかなアルト、その声にのせて届く親愛の情。
 極めつけに白いパーカーとジーンズ、それに黒いブーツというごくふつうの服装。
 15、6の華奢な少年は、だめ押しのように目を細めてすこし首を傾げた。

「挨拶ゥ!」
「は、こ、こんにちは、サー!!」

 あまりにも想像と実体が違いすぎて動揺する兵士たちを後目に、声かけをしたオルウェインだけが会釈をする。

「ギーガー大佐のご命令によりお迎えにあがりました、ミスター・ロック」
「お話は伺っています、オルウェイン大尉。まったく、ダニーにはあんなにみなさんの手を煩わせないように言ったのだけれど」
「申し訳ございません。これでも最小規模に抑えましたが、これ以下には……」
「ああ、あなたに文句を言いたいわけではありません。すみません、演習中に急にお邪魔して。あとでお手すきのときにでもきちんとお詫びをさせてください」
「は、い、いえ」
「あ、そうだ。ぼくはいまは一般人なのでミスターはやめてくださるとうれしいです。ただのロック、と」
「は、はあ……」
「今日は本当にお迎えありがとうございます。隊のみなさんにもお土産があるんですよ、こちらに」
「お、おみやげですか?」

 てきぱきと積んできた荷の説明に移った“VIP”とオルウェインをぼうっと眺めながら、隊員たちはボソボソと囁きあう。

「すげえ、なんだかわからんが隊長がたじたじだ」
「なんかすごいマイペースなガキだなおい」
「あれがお偉いさんってマジ?」
「ギーガー大佐って、ダニエル・ギーガー? あのガハハ髭オヤジか? 中央の?」
「ダニーっつったよな、あのガキ……いや、ガキじゃねえのかな」
「や、ガキだろどっからどう見ても。隊長につぶされちまうんじゃねえの」
「だからガキなんだけどガキじゃねえかもって」
「ってかお土産って何だよ腹減るんだけど」

 混乱の極みの隊員を置いてけぼりにして、いつのまにやら説明を終えた少年と、心なしか疲弊した様子のオルウェインが戻ってきた。あわてて姿勢を正す隊員たちをオルウェインは据わった目で睨みつけたあと、ごほん、と咳払いをする。

「えー、こちらの方は新連邦軍に多大な援助をお」
「クーガー!!」

 と、出鼻を挫かれたオルウェインががっくりと肩を落とすのを見て隊員一同で同情しながら、つかつかと少年がまっすぐ向かってくるのに身構える。
 クーガーって、まさか。

「マクバード、やっぱりおまえの」
「知らない知らないこんなやつ知らない」

 頑なに少年を見ようとしないマクバードだが、その歩みは止まらない。うれしそうに表情をゆるませて、きれいに整列したのっぽたちの間をすり抜け、結局マクバードの目の前で立ち止まってしまった。

「ひさしぶりだね、クーガー」
「……わたくしごとき雑兵のお名前をご存じとは、恐悦至極の限りですミスター」

 見る人が見れば花畑でも背負って見えたかもしれないほど晴れやかな笑顔で話しかけるのに対して、返る返事はひどく冷たかった。
 少年はぱちぱちと瞬いたあと、目を白黒させる以外にしようのない周囲を見渡すと、ほんのすこしうつむき気味にあー、とつぶやく。ようやく雰囲気に気が至ったらしい。
 口に手を当てておろおろする少年はマクバードの半分程度の身長しかなく、体格も軍人と比べるまでもなく華奢すぎてどうにも落ち着かない。ウィラーたちはマクバードと少年を交互に見、オルウェインにも視線を向けるが、返ってきたのは「とりあえず待機」のサインだけだった。
 その場にいる全員が最低の居心地を共有しつつ、沈黙の時がすぎる。やがて、おずおずと少年が口を開いた。

「怒ってるのか、な、ひょっとして」
「何のことだかさっぱりわかりかねます、ミスター」
「え、えっと、おみやげがあるんだよ、きみの好きな林檎のコンポ……」
「申し訳ありませんが、差し入れのうち特に飲食物のたぐいはきちんとした手続きを通していただきませんとお受け取りしかねます、ミスター」
「……クーガー、あの、いきなり来て悪いとは思ってるんだけれど……」
「悪いだなんて一言も言ってませんよ、ミスター」
「……うう……」

 先ほどまでオルウェインを振り回していたのと同一人物とは思えない萎縮っぷりだ。もともと小柄なのがますますちいさく見える。

「すげえ、なんだかわからんが見事にとりつくしまもない」
「なんかかわそう」
「でもどう考えても関係者だよなあれ」
「えっなになんなの、兄弟とかなの」
「あんまり似てないな」
「おれもそう思う。似てねえ、ぜんっぜん似てねえ」
「つかさっき差し入れとか言ってたぞ」
「えっ何食い物? お土産って食い物? やべえ腹減った」
「テディ……おまえそればっかりだな……」

 膠着状態に盛り上がる野次馬、いい加減収集が付かなくなってきたあたりで、二度目の咳払いが響いた。

「あー。マクバード、お客人を困らせんように」
「……イエス・サー」
「あっ、大尉、クーガーは悪くないんです、いきなり来たぼくがいけないんです……」
「……ロックさん、とりあえずここは空気があまりよくないので、さきに客室にご案内します。おいおまえら」
「イエス・サー!!」

 肩を落とす少年を、クラインとアボットがひきつった笑顔を浮かべながら護衛する。その数メートル後ろを肩を怒らせたマクバードが荷物を引いてゆくのを、残された隊員たちはただ眺めているだけだった。



「結局誰だよ、あのガキ」
「……さあ……」

 伝説を誰も知らない――今のところは、まだ。










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 ファイナルクエストと闇の王の間で、クーガーが軍に所属しだして、ときどき父兄参観にやってくるおじいちゃん、というテーマです。